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仙台高等裁判所 昭和62年(ラ)78号 決定 1988年7月26日

抗告人

吉井ヨシ

抗告人

吉井功

上記両名代理人弁護士

鵜川隆明

相手方

東群電子株式会社

上記代表者代表取締役

中村義夫

上記代理人弁護士

山田敏夫

烏丸真人

主文

原決定を取り消す。

相手方に対する、別紙目録記載の不動産の売却を不許可とする。

理由

1  本件抗告の理由は別紙記載のとおりである。

2  本件競売事件記録及び本件抗告事件記録によれば下記の事実を認めることができる。

原審が最低売却価額を定める基礎とした売却物件の評価は、評価人岩城章の評価書に依拠したものであるが、同評価書においては、売却物件中の宅地について、その登記簿上の地積235.86m2を基礎とし、建付地価格を六〇、三〇〇円/m2、法定地上権の及ぶ範囲の地積を110.36m2、その価格を18.100円/m2として、下記の計算式により約一二二〇万円の評価額を算出し、これに売却物件中の建物の評価額二二六万九一〇〇円を加算して合計一四四六万九一〇〇円と評価したものである。

(計算式)

六〇、三〇〇円/m2×235.86m2−一八、一〇〇円/m2×110.36m2≒一二、二〇〇、〇〇〇円

しかして、原審は上記評価に従い、売却物件たる宅地・建物を一括売却することとしてその最低売却価額を一四四六万九一〇〇円と定めて物件明細書を作成し所要の手続を経て期間入札に付した結果、相手方が二五〇一万四〇〇〇円・申立外菅野春雄が二〇〇〇万円、同平城益男が一四四六万九二〇〇円の価額によりそれぞれ入札の申出をしたので、原審は相手方をもつて最高価入札人として右入札申出額による売却許可決定(原決定)を言い渡した。

しかし、売却物件中の宅地は実測によれば、318.59m2の地積を有する(地積は結局三三%弱相違する。)ので、もし原審評価人の採つた計算式により、右実測地積を基礎に評価額を算出すれば、次式により約一七二一万三四〇〇円と評価されることとなり、これに売却物件中の建物の評価額二二六万九一〇〇円を加算すれば売却物件全体の評価額は約一九四八万二五〇〇円となる筋合である。

(計算式)

60.300円/m2×318.59m2−18.100円/m2×110.36m2≒一七、二一三、四〇〇円

3 上記認定の事実によれば、原審の売却許可にかかる相手方の入札申出額は、実測地積を基礎にして計算した売却物件の上記評価額を相当上回る金額である二五〇一万四〇〇〇円であるけれども、原審が最低売却価額を定める基礎とした評価額(全体として約一四四七万円)と実測地積に基づく評価額(約一九四九万円)との間には著しい相違(約五〇〇万円、前者を基準とすれば三五%弱)があり、もし原審が実測地積に基づく評価額を基礎にして最低売却価額を適式に定め、物件明細表を作成して入札に付したとすれば、上記認定の各入札より高価額の入札申出がなされた蓋然性を否定できないというべきである(「最低売却価額」は入札人のする入札価額算出に際しての参考基準となるべき面もあることを考慮すべきである)。そうだとすると、原審が、実測地積によらず、登記簿上の地積をもとに算出した売却物件の評価額を基礎として最低売却価額を定め、物件明細書を作成したのは、重大な手続上の誤りというべきであり、その手続には民事執行法七一条六号該当の事由がある。

4  してみると、原決定は違法であり、本件抗告は理由があるので、原決定を取り消し、相手方に対する売却物件の売却を許さないこととし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官奈良次郎 裁判官伊藤豊治 裁判官石井彦壽)

抗告の理由

1 抗告人らは、本件不動産の共有者兼連帯保証人であるところ、当該物件が安価に売却されることによつて、債務の弁済に影響を受けることになり、抗告人らの権利が害されることになる。

なお、抗告人ヨシの夫であり同功の父である亡吉井善四郎が連帯保証人となつていたものである。

2 本件宅地の面積は235.86m2と物件明細書等に記載されているが、実際に測量してみると313.5m2である。

この77.64m2の差は、3.3m2当たりの時価が四〇〜五〇万円とされている周辺地地価からすると、大変重要な意味をもつものと考えられる。

実測面積で評価をすれば、当然最低売却価額は上昇するし、実測面積が物件明細書等に明確に記載されれば、本件土地を落札しようとした者が増えるばかりか、買受申出額も上昇したこと明白である。

以上の誤りは、民事執行法七一条六号に該当すると思料されるので、執行抗告に及んだ次第である。

物件目録

(1) 所在 伊達郡川俣町字瓦町

地番 五四番壱

地目 宅地

地積 235.86m2

(2) 所在 前同所五四番地

家屋番号 五四番壱の弍

種類 居宅

構造 木造亜鉛メッキ鋼板葺弍階建

床面積 一階 69.42m2

二階 16.52m2

(2)の未登記付属建物

1 種類 便所

構造 木造亜鉛メッキ鋼板葺平家建

床面積 2.07m2

2 種類 風呂場

構造 木造亜鉛メッキ鋼板葺平家建

床面積 5.78m2

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